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大阪地方裁判所 昭和48年(ワ)2995号 判決 1975年1月22日

原告 黒崎邦明

右訴訟代理人弁護士 山中仙蔵

同 山中順蔵

被告 扶桑鋳工株式会社

右訴訟代理人弁護士 福岡彰郎

同 岡本生子

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

一、原告

1.被告会社の昭和四八年五月二九日開催の第一六回定時株主総会における被告会社の発行する株式の総数を八万株とする旨の決議が存在しないことを確認する。

2.訴訟費用は被告会社の負担とする。

二、被告会社

主文一、二項と同旨

第二、当事者双方の主張

一、原告の請求の原因

1.被告会社は各種鋳造品の製造・販売および鋳造関連品の販売ならびにこれらに附帯する一切の事業を目的とする発行済株式総数二万株(一株の金額五〇〇円)の株式会社である。

2.原告は被告会社の株式六、七〇〇株を有する株主である。

3.被告会社は昭和四八年五月二九日開催の第一六回定時株主総会において、被告会社が発行する株式の総数を八万株とする旨の定款変更の決議がなされたとして、翌六月一二日その旨登記を終えた。

4.なお、被告会社が主張するような株主が出席して、右株主総会が開催され、議長から右授権資本変更の提案がなされ、また承認されたいと説得されたが、原告がこれに応じなかったところ、何ら議決を採ることもなく前記株主総会は閉会されたのであり、仮に採決があったとするも、法定の三分の二以上の賛成がえられず否決されたので、右議案に対する決議は存在しなかった。

よって原告は右決議が不存在であることの確認を求める。

二、被告会社の答弁ならびに主張

1.原告の請求の原因1ないし3の事実は認める。

2.被告会社の第一六回定時株主総会は昭和四八年五月二九日開催され、訴外北川四良(持株九、一〇〇株)、同扶桑工業株式会社(同三、七〇〇株)、同池木日出男(同一〇〇株)、同黒崎文弥(同四〇〇株)および原告(同六、七〇〇株)ら被告会社の全株主が出席し(ただし、右池木については委任状より代理人北川四良が右扶桑工業株式会社は代表者の同じく北川が出席)、議長となった右北川から被告会社の授権資本を八万株とする旨の前記定款変更の理由などにつき説明があり、採決をしたところ全員一致で可決されたものである。

第三、証拠<省略>

理由

一、原告が被告会社の株主であることは当事者間に争いがない。

二、そこで本件定款変更決議の存否につき判断する。

1.まず、被告会社の第一六回の定時株主総会が昭和四八年五月二九日、同社の全株主が出席のうえ開催されたこと、被告会社の株主とその持株数は訴外北川四良が九、一〇〇株、同扶桑工業株式会社が三、七〇〇株、同池木日出男が一〇〇株、同黒崎文弥が四〇〇株および原告が六、七〇〇株であるところ、右会日に株主池木については委任状により代理人北川四良が、また同じく株主扶桑工業株式会社についても代表者である北川四良が出席したため、当日の現実の出席者はこの北川、黒崎文弥および原告の三名であること、右総会において議長から被告会社の授権資本を八万株とする旨の定款の変更について提案のあったことは当事者間に争いがない。

2.ところが株主総会において、決議が存在するに至る時期については、総会の討議の過程を通じてその最終段階になって議案に対する各株主の確定的な賛否の態度が明白になった時、決議が存在するに至ると解するのが相当であって、定款に別段の定めがある場合を除き、採決行為のないことをもって決議が不存在であるとはいえない(最高裁判所昭和四二年七月二五日判決民集二一巻六号一六六九頁参照)。

3.本件につきこれをみるに、<証拠>によれば次の事実が認められる。すなわち、

(一)原告は昭和三二年八月一日扶桑鋳工産業株式会社の商号で被告会社を設立し、代表取締役として同社を経営していたが、これが行き詰り、被告会社の製品の販売会社で被告会社の親会社格の扶桑工業株式会社から役員二名を迎えるなどした。しかし、原告は昭和四七年五月右会社の代表取締役北川四良と被告会社の経営方針について意見が合わず遂に前記代表取締役を辞任するに至った。その後も原告と右北川との間は円滑を欠き、原告の持株を北川側で買取るとの交渉も合意が成立せず、却って原告は同人の持株比率(三分の一を超える)の低下を防止するために昭和四八年四月ごろに行なわれた被告会社の増資新株発行に積極的に応募している。

(二)訴外黒崎文弥は原告の実弟であるが、原告とは袂を分ち同人と融和を欠く前記北川らが役員をしている被告会社で工場長兼取締役としてとどまっている。

(三)被告会社は従前原告が代表取締役をしていたころから公害防止設備と従業員の福利厚生施設を充実する必要に迫まられ、その資金調達のため授権資本を増加しなければならなかった。そこで昭和四八年五月二九日に株主総会を開くべく原告にも招集通知が発せられたが、これに対して原告は会日前被告会社に宛て右授権資本を増加する旨の定款変更には不同意であるとの書面を出した他方株主黒崎文弥は被告会社の工場長としても右公害防止設備をすることを積極的に建議していた。

(四)かくして右株主総会は開催された。会場は被告会社の八畳ほどの広さの会議室で、前記三名の株主と、二名の被告会社役員がテーブルを囲み、被告会社の代表取締役である北川四良が議長となってはじめられた。

まずこの総会の議案のうち決算書類および利益金処分案の承認と任期切れによる監査役の重任の件がとりたてて議論もされず、反対もなく可決され、ついで本件授権資本変更の議案の審議に入った。

そして北川は前記原告の反対の意思表明があるので専ら原告の理解をうべく右議案の提出理由について説明をしたが、原告はその目的および資金の必要性は認めるが、授権資本の増加すなわち新株発行という方法では同人の当時の持株比率が変るおそれがあることを理由に反対である旨の意思を表明した。これに対して被告会社役員は増資をしても当時の持株比率に応じて割当てるので、結果的に原告が主張するような心配はないことを述べ説得をしたが、原告は翻意せず、却って再度反対の意思を表明した。

その後はさらに討議もなされず、続行の動議などもなく、本件総会を終結し、それまでの間本件定款変更の議案の審議に費された時間は約二〇分位である。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。これらの事実を綜合すると、遅くとも原告が本件総会において二度目の意思表明をした段階で、右議案について原告が反対で、北川と黒崎文弥の両名が賛成であるとの態度が確定的となったことは当日出席した株主にはおのずから明白となったことが推認され、前述したところから右段階で本件定款変更決議は存在するに至ったというべきである。

4.なるほど右賛成の議決権の数は、前記争いのない事実をもとに計算すれば一三、三〇〇株であって、商法三四三条で法定されている出席株主の議決権数の三分の二以上(本件の場合一三、三三四株以上)とはなっていないから本件決議が可決成立したとはいえないが、これをもって決議の不存在とは評価できず、決議の取消事由にすぎない(商法二四七条一項後段)と解すべきである。

三、よって原告の本訴請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 首藤武兵 裁判官 菅野孝久 岩谷憲一)

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